私の履歴書61   すきなうた(和歌)

わが姿たとえ翁と見ゆるとも

心はいつも花の真盛り

牧野富太郎



なせばなるなさねばならぬ何事も

ならぬは人のなさぬなりけり

上杉鷹山



形見とてなにか残さむ春は花

山ほととぎす秋はもみじ葉

良 寛



願わくは花の下にて春死なん

そのきさらぎの望月のころ

西 行



何事のおはしますとは知らねども

忝けなさに涙こぼるる

西 行



しろがねも金(くがね)も玉も何かせむ

まされる宝子に如かめやも

山上憶良



白玉の歯にしみとおる秋の夜の

酒はしずかに飲むべかりけり

若山牧水



石激(ばし)る垂水の上のさわらびの

萌え出づる春になりにけるかも

志貴皇子



我が背子を大和へやると小夜更けて

あかとき露にわが立ち濡れし

大伯皇女



さざ波や志賀の都はあれにしを

むかしながらの山ざくらかな

平 忠度



都をば霞とともに立ちしかど

秋風ぞ吹く白河の関

能因法師



吹く風をなこその関とおもへども

道もせに散るやま桜かな

源義家



年を経し糸の乱れの苦しさに

衣のたては綻びにけり

安倍貞任・源義家



やくも立つ出雲八重垣妻ごめに

八重垣つくるその八重垣を

素戔嗚尊



見わたせば柳桜をこきまぜて

都ぞ春の錦なりける

素性法師



名にしおはばいざ言とはむ都鳥

わが思ふ人は有りやなしやと

在原業平



これやこの行くもかへるも別れては

知るも知らぬも逢坂の関

蝉 丸



こち吹かばにほひおこせよ梅の花

あるじなしとて春を忘るな

菅原道真



花の色はうつりにけりないたづらに

我が身世にふるながめせしまに

小野小町



若の浦に潮満ち来れば潟をなみ

葦辺をさして鶴(たづ)鳴きわたる

山部赤人



田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ

富士の高嶺に雪は降りける

山部赤人



やわ肌のあつき血潮のふれもせで

さびしからずや道を説く君

与謝野晶子



ふるさとの山にむかいて云うことなし

ふるさとの山はありがたきかな

石川啄木



生ける者遂にも死ぬるものにあれば

この世なる間は楽しくをあらな

大伴旅人



何となく今年はよい事あるごとし

元日の朝晴れて風なし

石川啄木

「願わくは」碑<br />  大阪府河南町 弘川寺 (平10.9)
「願わくは」碑
  大阪府河南町 弘川寺 (平10.9)

「我が背子を」碑<br />  三重県明和町 斎宮跡 (平13.2)
「我が背子を」碑
  三重県明和町 斎宮跡 (平13.2)

「吹く風を」碑<br />  いわき市 勿来の関 (平12.4)
「吹く風を」碑
  いわき市 勿来の関 (平12.4)

「年を経し」碑<br />  岩手県衣川村 (平6.5)
「年を経し」碑
  岩手県衣川村 (平6.5)

「八雲たつ」碑<br />  島根県大東町 須賀神社 (平9.9)
「八雲たつ」碑
  島根県大東町 須賀神社 (平9.9)

「こち吹かば」碑<br />  太宰府市 太宰府天満宮 (平11.11)
「こち吹かば」碑
  太宰府市 太宰府天満宮 (平11.11)



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「日々是好日」 −高橋春雄・私の履歴書−