しょうぶ

謡蹟めぐり  六浦 むつら

ストーリー

旅の僧が東国行脚の途次、相模国六浦の称名寺に立ち寄ります。山々の紅葉が今を盛りと見える中に、一葉も紅葉していない楓の木を見付け不審に思います。
そこに一人の女が現れます。僧が楓のことを尋ねると女は、昔鎌倉の中納言爲相卿がこの寺に来た時、山々の楓に先立ってこの木だけが見事に紅葉していたのでそれを歌に詠み、以来この木は「功なり名遂げて身退くは天の道なり」という古語を信じて紅葉を止めて常磐木のようになったと語ります。僧はこれを聞いて女の素姓を尋ねると、自分はこの楓の精で尊き僧に逢うために出て来たのだと答え、秋草の中に消え失せます。
その夜、僧がこの寺で読経していると楓の精が現れ、草木も国土も皆成仏するという経文の徳を讃えて神楽を舞い夜明けと共に消えて行きます。(「宝生の能」平成10年8〜9月号より)

称名寺 (平11・3記)

中世の頃金沢・六浦は鎌倉の外港として繁栄し、関東随一の海上交通の拠点であった。「鵜飼」の僧も安房の清澄から甲斐の国へ行くのに、六浦のわたりを通っている。近くには「放下僧」の瀬戸神社もある。
本曲の舞台、称名寺は金沢山称名寺と号し、真言律宗、別格本山。北条氏一門の菩提寺で、草創の時期は明らかでないが、金沢氏の祖、北条実時が六浦荘金沢の居館内に営んだ持仏堂から発したと推定されている。
称名寺の庭園は金堂の前池として、その荘厳のために設けられたもので、南の仁王門を入り、池を東西に二分するように中島に架かる反橋と平橋を渡って金堂に達するようになっている。このような配置は、平安時代中期以降、盛んになった浄土式庭園の系列にあるもので、現存する同一形式の庭園として、岩手県平泉町の毛越寺、奈良市円成寺などがあるという。寺に隣接する金沢文庫も有名である。
金堂の前に青葉の楓がある。曲中に出てくる青葉の楓は今から約20年ほど前に枯死し、現在のものは紅葉する普通の楓樹に植えかえられたものという。

称名寺ワイド 称名寺 横浜市金沢区金沢町 (平7.1)

しょうぶ 池のまわりのキショウブ 称名寺 (平17.5)

称名寺の楓 二代目青葉の楓 称名寺 (平7.1)

藤原爲相の墓 鎌倉市扇が谷 (平19・6記) 

本曲に登場する中納言爲相ためすけとは、藤原爲相である。爲相は藤原俊成の曾孫、藤原定家の孫にあたり、冷泉家の祖で、冷泉爲相と呼ばれ、鎌倉に住み66歳で没した。鎌倉市浄光明寺裏山に爲相の墓がある。

浄光寺 浄光明寺 鎌倉市扇が谷 (平13.4)

為相の墓 藤原為相の墓 浄光明寺 (平13.4)

星月夜の井  鎌倉市坂の下 (平19・6記)

曲中に「星月夜鎌倉山」と謡われるが、鎌倉の坂下、極楽寺切通下に星月夜の井戸がある。鎌倉山の写真は「鵜飼」の項に掲げた。
この付近は往時、老樹が鬱蒼と繁っており昼なお暗かったので星月谷と呼ばれていたが、転訛して星月夜と呼ばれるようになったという。古老の話ではこの井戸で昔は昼間でも星が見えたのでこの名前がついたが、ある時近辺の女が誤って菜刀を落としてから星がみえなくなったという。

星月夜の井 星月夜の井 鎌倉市極楽寺切通下 (平8.2)


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