葛城山より金剛山

謡蹟めぐり  葛城 かづらき

ストーリー

出羽国羽黒山の山伏が、大峰葛城の明神へ参詣を志し、日を重ねて遂に辿り着きましたが、折しも降りしきる雪の中、前後もわからないほどなので木陰に休んでいました。
そこへ通りかかった里人が寒さを凌ぐために谷底の我が家へと案内します。勧められるままに寛ぐ山伏に、あまりにも夜寒だからと言って女は、葛城山の標(細枝)を焚いてもてなします。山伏に問われると女は標のいわれを語り、又ゆかしい歌問答を交わします。
やがて山伏が後夜の勤めを始めようとすると女はその昔、役の行者の言いつけを果たさなかったために三熱の苦を受けているこの身を救ってほしいと打ち明けて姿を消します。
夜もすがら勤行をする山伏の前に葛城明神が現れて、祈祷を喜び舞を舞いますが、自分の醜貌を恥じてか夜も明けぬうちに葛城の岩戸に帰って行きます。(「宝生の能」平成11年12月号より)

葛城山   (奈良県御所市)   (平13・10記)

舞台は奈良県、葛城山である。葛城明神は昔は金剛山上にあったのを移されたといい、今は山麓の御所市森脇にある葛木一言主神社である。長い名称なので、現地では一言(いちげん)さんと呼ばれている。
伝説の中心となる岩橋は、いまの葛城山の北に連なる岩橋山の山頂近くにある由。昔は山に登るのも容易ではなかったと思うが、今はロープウエイが山頂まで通じ、簡単に行くことが出来る。山頂からの眺めは素晴らしく、金剛山も間近に見ることができる。ロープウエイ駅の近くには葛城天神社があり、その境内に役行者神変大菩薩の祠がある。そこに役行者ついてその生い立ち、行跡、岩橋のことなどが記されているので全文を掲げてみる。
「 役行者  役行者は名を小角、姓は役公といい舒明天皇六年、この山の麓御所市茅原の里で生まれました。父は加 茂間賀介麿又の名大角、母は渡部岐比売又の名自尊女と伝えられています。幼少より天性聡敏七才にして仏道に志しその蘊奥を極め、当時麻の如く乱れた人心を救済されようとして十七才で発願され、この葛城の深山幽谷で荒修行を重ね蔵王権現を感得し、修験道を開創されました。その足跡は山岳修行の先駆者として日本全国の霊山に残されておりますが、とりわけここ葛城山は役行者が四方の山をうち眺め吉野大峰の如何にも程近いさまに、葛城から大峰に岩橋をかけ客僧達の通い路にされようとした伝説とともに山岳宗教修験道発祥の霊地として崇敬されているのであります。 」

葛城山ロープウエイ 葛城山とロープウエイ 奈良県御所市 (平8.9) 今ではロープウエイで簡単に登れる

葛城山より金剛山 葛城山から金剛山を望む 奈良県 (平8.9)葛城明神はかって金剛山上にあったという

役行者神変大菩薩 役行者神変大菩薩の祠 葛城山 (平8.9)役の行者修行の地

一言主神社 (奈良県御所市) (平13・10記)

葛城山の山麓にあり葛城明神を祀る。この神社は、一言でお願いすると叶えられると言い、また「土蜘蛛」の塚と称するものがある。
その昔、雄略天皇と葛城の一言主とが葛城山中で出会ったとき、一言主は「吾は悪事も一言、善事も一言、言離つ神、葛城の一言主の大神なり」と名のって、天皇を畏れさせたことが紀記にみえるとのこと。爾来庶民の間で願い事を一言だけ聞きとどけてくださるイチゴンサンとして親しまれているという。

一言主神社 葛城一言神社 奈良県御所市 (平1.5) 一言だけ願いを聞きとどけるという神様

羽黒山(出羽三山神社) (山形県羽黒町) (平13・10記)

曲中にワキの言葉として「是は出羽の羽黒山より出でたる山伏にて候」とある。羽黒山から出た山伏が葛城に入ったところからこの物語が始まるのである。
出羽三山(月山・羽黒山・湯殿山)は、古来修験の山、行の山、精霊の山として、全国六十六ケ国中、東三十三ケ国の総鎮護として皇室をはじめ、歴代の武将、庶民から篤く崇敬されてきたお山である。
出羽三山は今から1400年前の推古元年(593)に、第32代崇峻天皇の第一皇子・蜂子皇子が羽黒山をお開きになったことに始まる。御開祖・蜂子皇子は、自ら難行苦行の修行をつまれ、心身の修養と国家、ならびに国民の幸福はもとより、世界の平和を祈願する「羽黒修験道」を創立され、羽黒山には出羽神社を、月山には月山神社を、さらに古代の自然崇拝の習わしを今に伝え、一切の人工造物を排する湯殿山には湯殿山神社を創建された。
平成5年6月、教授嘱託会東北大会(湯之浜大会)後の観光で出羽三山神社(月山神社・出羽神社・湯殿山神社)を参詣した時は素晴しい快晴に恵まれ、葛城山に向かった山伏も思わせるような法螺貝や杖を持った山伏姿のガイドさんに案内されて参詣した後、見晴らしのよい一室に案内され宮司さんからこの神社についていろいろお話をきく機会を得た。

出羽三山神社 出羽三山神社 山形県羽黒町 (平5.6) 月山神社、出羽神社、湯殿山神社の三社を祀る

羽黒山山伏 出羽三山神社の山伏 山形県羽黒町 (平5.6) ワキはこのような姿で葛城山に向かったのであろうか


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