阿漕塚全景

謡蹟めぐり  阿  漕  あこぎ

ストーリー

九州日向の国から出て来た僧が、伊勢参宮を志し、阿漕が浦にたどりつきます。僧はそこで出合った竿をかついだ老人に阿漕が浦のいわれを問います。老人はこの浦は伊勢大神宮に供える魚を漁るところで、殺生禁断となっている由を語り、阿漕という漁夫が禁断を破って密漁した事が露顕して海の底に沈められ、なおその罪があまりに深いために地獄に墜ち、今も呵責に苦しめられているので弔ってほしいと自らその亡霊であることを明かし恐ろしい叫びを残して消えます。
旅僧が阿漕の成仏を念じて読誦していると阿漕の亡霊が出現し、禁断の網を引きます。阿漕はせっかくの読経にも救われず、猛火となった波にあぶられ、捕った魚に身をせめられ、地獄の火に身をやかれ、骨を砕かれる苦しさをつぶさに見せ、助けたまえと頼みをかけつつ再び海の底へ消え去ります。(「宝生の能」平成11年6月号より)

謡蹟 阿 漕 塚(津市阿漕町)  (平3・4記)

本年4月、伊勢は津市にある阿漕塚を訪ねて見た。海岸からはだいぶ離れた街並みのまん中にあり、かなり広い敷地に立派な塚や句碑が建てられており、記念館も出来ていて津市の名所といった感じである。
記念館の方からいただいた解説によると、津市は昔「安濃津」といっていた由。それは「安濃郡の舟着場」、あるいは「安濃郡の港町」ということによる地名である。ところで、その「安濃」の「濃」を「コキ」と読んで「アコギ」と転化させたのが「阿漕」の地名となったという説が伝えられているとのこと。
「田村」の曲の中に、「ふりさけ見れば伊勢の海、安濃の松原むらだち来って」という文句があるが、三重県には安濃町という町があるので、この辺の松原かと思っていたが、「謡蹟めぐり」の本によると安濃の松原は津市の海岸にあると書いてあるので、不思議に思っていたが、この説明を読んで納得した。
また、この解説には「平治孝子伝説」が紹介されており、謡曲とはひと味違ったストーリーとなっており、興味をひかれたので再掲してみる。
「阿漕、平治が母の病気によくきく、という『矢柄』という魚を秘かに漁獲して、ヤレ嬉しやと、わが家に帰ったところ、あまりの嬉しさに浜辺へ笠を忘れて来たが、役人がその笠をつきつけ、笠に平治と書いてあるのが証拠だぞ、と平治を引立てて処刑をした。つまり、母の病を思っての孝行も水の泡。平治は簀巻きにせられて、海へ投げ込まれてしまった。」 という話となっています。
そして、この話に尾ヒレをつけた又話が出来ました。平治が阿漕浦に投げ込まれてからは、夜な夜な阿漕浦の沖に、あやしい光が表れるようになったので、嗚呼可愛想な平治が、うらみの光をはなつ、と人々が云い、何とか平治の魂を供養しよう、と平治供養を始めました。

阿漕塚と同じ敷地内に芭蕉の句碑がある。かなり大きなもので碑面には
『        阿 漕 塚
      月の夜の 何を阿古木に 啼く千鳥           』
とある。記念館の解説によると、芭蕉の句についてはいろいろと異論があって、真偽の程が疑われているが、その碑面の裏に、此地大楽山上宮寺故地也、と刻まれており、このあたりが昔の津の中心部であったことをうかがわせるとのことである。

阿漕塚全景 阿漕塚全景 中央奥が阿漕塚、左手が芭蕉句碑、その後ろが榎の木. 津市阿漕 (平3.4)

阿漕塚 阿漕塚  今でも花が手向けられ、手入れされている. 津市阿漕 (平3.4)

阿漕塚芭蕉句碑 芭蕉句碑 月の夜の何を阿古木に啼く千鳥. 津市阿漕 (平3.4

伊勢神宮 伊勢市 (平12・6)

曲中に伊勢神宮が謡われているので、その起源などについて調べてみた。
伊勢神宮は内宮と外宮に分れ伊勢市の広大な森に鎮座する。伊勢神宮内宮は天照大神を祀り、神体は神鏡である。外宮は豊受大御神を祀る。
皇大神宮の起源は、宮中に祀られていた神鏡を、崇神天皇の皇女豊鍬入姫に大和の笠縫邑に祀らせたのが始めで、姫は大神に奉仕し、これが斎宮の始まりという。
笠縫邑から現在の伊勢に移されるまでには、多くの変遷があったようで元伊勢と呼ばれる元伊勢大神宮なるものが各地にある。
大和の笠縫宮も諸説ありはっきりしないけれども、三輪明神の裏の檜原という説が有力で檜原神社が祀られている。
また「大江山」の舞台である大江山への登り道の山間に元伊勢があり、元伊勢神宮内宮と元伊勢神宮外宮が祀られている。
垂仁天皇の御代になって皇女倭姫が三種の神器の一つである神鏡を奉じて諸国を廻り、現在の地に鎮座することとした。その途中、二見が浦から五十鈴川に沿って上ったところ、裳裾(もすそ)が汚れたため川水で濯いだことから御裳裾川とも呼ばれることとなったといわれ、また、二見の名は倭姫巡遊の時に二度伊勢湾を見渡したことによるという。

伊勢神宮内宮 伊勢神宮内宮 天照大神を祀る. 伊勢市 (平2.6

檜原神社 檜原神社  昔の笠縫邑で元伊勢神宮 桜井市松原 (平8.9)

元伊勢内宮 元伊勢神宮内宮 大江町の山間に鎮座 京都府大江町 (平5.9)

元伊勢外宮 元伊勢神宮外宮 ここも大江町の山間、近くに天の岩戸もある. 京都府大江町 (平5.9)


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