かきつばた園

謡蹟めぐり  杜若 かきつばた

ストーリー

諸国一見の僧が都から東国へと志す途中三河国(愛知県)へやって来ます。とある沢辺に杜若の花が美しく咲いているのに見とれていると、そこへ一人の里女が現れ、ここは八橋という古歌にも詠まれた名所であり、昔、在原業平が東下りの際ここで休み、「かきつばた」の五文字を名句の頭において
「 か(・)らころも き(・)つつなれにし つ(・)ましあれば
  は(・)るばるきぬる た(・)びをしぞおもふ 」
という歌を詠んだという故事を教えてくれます。その上旅僧を自分の庵に案内し、泊ってゆくようにすすめます。やがて、女は初冠(ういかむり)に唐衣を来てその姿を見せに来るので、僧は驚いて素姓を尋ねます。女は自分が杜若の精であると明かし、また業平は歌舞の菩薩の化現であるのでその詠歌の功徳により非情の草木も成仏したと告げ、さらに「伊勢物語」や業平について語り、舞を舞い、やがて消え失せます。(「平成12年6月号」より)

無量寿寺、かきつばた園  (平7.3記)

本曲の舞台の地である。無量寿寺の境内なのであろうが、入口には八橋かきつばた園と書かれた大きな門が建っている。入口の近くには八橋舊蹟の碑が二つあり、まっすぐ進むと正面に見えるのが無量寿寺である。本堂内には業平の木像があるとのことである。
本堂の前にはひともとすすきと業平竹がある。ひともとすすきは謡曲「井筒」の故事にならって植えられたと伝えられ、このすすきの葉を片手で結ぶと願いごとがかなえられるという言い伝えから縁結びのすすきと云われている。業平竹も、業平の住んだと伝えられる大和国石上(いそのかみ)在原寺に、業平竹、ひとむらすすき、つつ井筒などの伝説があり、この八橋も業平の関係によって昔から植えられているとのこと。男女(めおと)竹と称え縁結びの竹として信仰されているとのことである。

かきつばた園 八幡かきつばた園 愛知県知立市八橋 (平7.2) 無量寿寺の境内で「杜若」の舞台となったところ

無量寿寺 無量寿寺 知立市 (平7.2)

八橋旧蹟碑 八橋旧蹟の碑 無量寿寺 (平7.2)

ひともとすすき ひともとすすき 無量寿寺 (平7.2) このすすきの葉を片手で結ぶと願いがかなえられるという

業平竹 業平竹 無量寿寺 (平7.2) 男女(めおと)竹と称し縁結びの竹として信仰されている

寺の裏手に廻ると杜若姫の供養塔がある。花崗岩で作られた宝篋印塔で、高さ約1メートルほどのものである。説明には
「 杜若姫は小野中納言篁の娘と伝えられ、東下りの在原業平を恋い慕って、やっとこの八橋の逢妻川で追いついたが、業平の心を得ることができず、悲しんで池に身を投げて果てたと伝えられている。この塔は、姫をあわれみ、後の世に供養して建てたものと思われる。 」と書かれている。

杜若姫の供養塔 杜若姫の供養塔 無量寿寺 (平7.2) 業平の心を得ることができず池に身を投げた杜若姫をあわれみ建てられた

杜若姫の供養塔のそばに業平池がある。こここそ本曲の舞台である。池のほとりには「業平池」と刻まれた古い石柱が立っている。このあたりから池とも川とも区別しにくい水路が複雑に広がっており、初夏の頃にはみごとなかきつばた園となる。
花の咲いている時は水路に架けられた八橋の様子ははっきりしないが、冬のかきつばた園では橋だけが浮き彫りにされており、花の頃とまた違った風情を楽しませてくれる。

業平池 業平池 知立市八幡 (平7.2) 杜若姫が身を投げたと伝えられる

かきつばた園 かきつばた園 知立市八幡 (平4.5) 初夏の頃はかきつばたが美しい

冬のかきつばた園 かきつばた園 (平7.2) 冬は八橋だけが浮き彫りにされている

在原寺  (平7.3記)

無量寿寺から歩いて10分くらいのところに在原寺がある。業平の分骨を葬った時にかたわらに小堂を建てたのが起源という。ここにも無量寿寺と同じく在原業平の木像、ひとむらすすき、業平竹がある。また、俳人山頭火の句碑があり、昭和14年この地を訪ねた彼が興を覚えて詠んだという次の三句がきざまれている。
    むかし男ありけりという松が青く
    はこべ花さく旅のある日のすなほにも
    枯草にかすかな風がある旅で
また近くの丘に業平の墓と宝篋印塔がある由だが、残念ながら見逃してしまった。

在原寺 在原寺 知立市八幡 (平7.2) 業平の分骨を葬った時にかたわらに小堂を建てたのが起源という

業平像 在原業平の木像 在原寺 (平7.2)

山頭火句碑 俳人山頭火の句碑 在原寺 (平7.2)

かきつばた群落  (愛知県刈谷市小堤西池) (平7.3記)

三河平野には昔からカキツバタなど多くの植物が生えている湿地や沼地がたくさんあったが、開発が進み昔の面影を残すのは、わずかにこの地のカキツバタのみとなった。これを保存するために昭和13年国の天然記念物に指定されたとのことで、この物語の頃と変らぬ眺めではないかと思われる風景が拡がっている。

かきつばた群落 かきつばた群落 刈谷市小堤西池 (平7.2) 昔の面影を残している

杜若像 (金沢駅前) (平7.3記)

金沢駅前で偶然に発見してびっくりした。その由来について次のように記されている。
「 金沢市は百万石前田藩の城下町として栄え、その文化遺産は今なお余韻を残し、都市の近代化と相和し格調高い風格をもちつづけている。
謡曲もその一つであり、加賀宝生として広く普及し市民生活の中に深く融けこんでいる。
「杜若」は能楽の始祖世阿弥が伊勢物語によりて創作したもので、いわゆる「能」としても最も流麗典雅な舞曲である。この「杜若」の舞姿は近代における加賀宝生の重鎮二代目佐野吉之助をモデルに本市出身日本彫刻界の巨匠日本芸術院会員吉田三郎の手になるものである。
これを伝統文化の香り高い市の玄関に飾るのは意義深いものがあると考える。
金沢兼六ライオンズクラブ  」

杜若像金沢 杜若像 金沢駅前 (平2.10)


−ニュース−

曲目一覧

サイトMENU

Copyright (C) 謡蹟めぐり All Rights Reserved.